(母乳育児支援研究所顧問 橋本武夫医師) 

何故今、”授乳”なのか

カンガルーのおっぱいは素晴らしい

カンガルーの赤ちゃんは1cm足らずの未熟児で生まれ、自分でお母さんのお腹をよじのぼり、 お腹の袋の中に潜り込んで、袋の中の小さな乳首に吸いつきおっぱいを飲み続ける。 大きくなると袋から外に出て、今度は胸にあるもうひとつの大きな乳首に吸いつく。 すなわち袋の中の乳首からは,蛋白質が多く脂肪が少ない「未熟児向きのおっぱい」を出し、 胸の乳首からは脂肪が多い「成熟児用のおっぱい」と、 カンガルーのお母さんは2種類のおっぱいを出している。

人間のお母さんのおっぱいも素晴らしい
未熟児を産んだお母さんは未熟児用の、 成熟児を産んだお母さんは成熟児にあう成分のおっぱいをちゃんと出している。 また、このような成分の生理のみでなく、たとえば、 膿がでている乳腺炎のお母さんの乳を赤ちゃんが飲んでも、 赤ちゃんに感染が発症しないのは、バイ菌と同時に母親からもらう 母乳中の免疫と抗菌物質等によるものなのです。まさに母乳の神秘というものでしょう。

地球上の哺乳動物はこの素晴らしいおっぱいの自然の生理と おっぱいの中の免疫の赤ちゃんへの移行により 数億年にわたり絶えることなく生存してきたのである。 しかし、今ここでこの母乳の神秘についての素晴らしさを述べるつもりはない。 今、大切とされる”母乳育児”すなわち、お母さんの乳首からの”授乳” の必要性について述べたいのである。

最近の育児にまつわる状況の中で、悲しいことが相次いで報道されている。乳児虐待・不登校・いじめ・自殺、あるいは母親がパチンコ中の赤ちゃんの車内熱中症による死。そして学校教育における体罰・いじめ・自殺の問題などなど・・・。

それらに対し、行政・教育・保健・医療関係者をはじめ、育児評論家など多くの人が色々な観点からその対策に主張を重ねている。
しかし、学校教育や家庭教育における問題や、育児110番などの対策は考えられても乳児期の母子関係までたどりつく主張はほとんど無い。 いじめ110番やパチンコ屋に託児所を設けてはどうか?という場当たり的発想とよく似ている。子育ても戦後の我が国の経済発展の影響による外注産業と同様、家庭での教育も外注教育化している現状で母と子、父と子の絆も希薄化している。
そんな中で、今だからこそもっと真摯に人間生物学的見地から、心とからだの原点、 すなわち母乳育児を含めた”母子関係のありかた”をみつめ直すべきときでもあろうといえる。
すなわち、出産を頂点としての母親、家族、そして赤ちゃんとの関わり方の中から 、育児というものをとらえ、今、求められる育児、そしてその原点について考えてみると、 結果的に行き着くところは”乳児期までの育児”、そして”母乳育児”すなわち”授乳”へと たどり着いてしまうのである。特に医学的にも、生物学的にも、出産後の瞬間から1~2週間が 最も大事な時期ともいわれ”成母期”とも呼ばれ、 生直後から赤ちゃんとお母さんは一体のものとして離してはいけないものなのです。
そして、赤ちゃんをしっかり抱いて語りかけ、 おっぱいを飲ませるという授乳行為が母と子の絆の形成に不可欠なものになってきます。 哺乳動物の”心と体”の発達の原点は、授乳からはじまるということを再確認したいと思います。そして、この乳児期の授乳行為が母子の信頼関係を築きあげ、こどもの”心の故郷”ともなっていくものなのです。この母子の信頼関係が人間愛の根源であり、やさしさや人をいたわる心を芽生えさせ大きく花を咲かせて人類愛へと昇華して行くものなのです。 「何故今、授乳なのか」の意味づけはここにあるといえるのです。


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